大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和30年(行)53号 判決 1960年12月26日

原告 岡由子

被告 大阪国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三〇年六月九日附でした原告の昭和二八年度分所得税の総所得額を金五七一、〇〇〇円とする旨の審査決定のうち、金二〇七、五四六円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求めた。

(請求の原因)

原告は、布施市長堂町一丁目四一番地において「大丸屋」の屋号で大衆飲食店営業を営むものであるが、昭和二九年三月一五日布施税務署長に対し原告の昭和二八年度分所得税の総所得金額を二〇〇、〇〇〇円と確定申告したところ、同税務署長は金六七五、〇〇〇円とする更正処分をなし、これを同年四月二八日原告に通知した。原告は同年五月二七日同税務署長に対し右更正処分について再調査請求をしたところ、同税務署長において同日より何らの決定をせずして三ケ月を経過したので、所得税法第四九条第四項第二号の規定により、被告に対し審査の請求がなされたものとみなされ、被告は昭和三〇年六月九日附で右総所得金額を金五七一、〇〇〇円とする旨の審査決定をなし、同決定は原告に通知せられた。

しかし、原告の昭和二八年度分の総所得金額は金二〇七、五四六円であるから、被告の審査決定のうち右金額を超える部分は違法であるから、その部分の取消を求める。

(被告の答弁及び主張)

原告請求原因事実中、前段は認めるが、後段は争う。被告の審査決定には取消すべき瑕疵はなく全部適法である。

一、収入金額(五、三〇二、八九八円)

原告は、被告が原告の昭和二八年度分の所得金額を調査するに際して、全然帳簿、証拠書類がないと称してて、これを提示しなかつたので、被告は、原告の昭和二八年度における売上高を次のように推計して、収入金額を五、三〇二、八九八円と認定した。

(1)  酒類の売上高(合計三、八八四、四三〇円)

(イ) 二級酒以外の酒類の売上(一、九一四、四三〇円)

二級酒以外の売上高は次表のとおりである。

品種

仕入数量

単位当り売価

売上高

特級酒

一三升

一、〇〇〇円

一三、〇〇〇円

一級酒

六三升

八五〇円

五三、五五〇円

焼酎

二、七三〇升

三五〇円

九五五、五〇〇円

ビール(大)

四、八〇〇本

一二〇円

五七六、〇〇〇円

ビール(小)

八八八本

六五円

五七、七二〇円

ビール(黒)

七四四本

七五円

五五、八〇〇円

生ビール

八八二立

二三〇円

二〇二、八六〇円

合計

一、九一四、四三〇円

(ロ) 二級酒の売上(一、九七〇、〇〇〇円)

二級酒の仕入数量は三、七〇〇升であつて、販売価格及び販売数量については、一月より三月までは売価一升当り五〇〇円、販売数量一、三〇〇升、四月以降一二月までは売価一升当り五五〇円、販売数量二、四〇〇升であるから、その総売上高は一、九七〇、〇〇〇円である。

(2)  あて(副食品)の売上高(合計一、四一八、四六八円)

(イ) あて(副食品)の仕入高は九三六、一八九円であるから、右仕入高に原価率六六パーセントを適用すれば、売上高は一、四一八、四六八円となる。

算式 936,189円÷0.66=1,418,468円

(ロ) 右の原価率の算出は、原告が作成した「販売品目定価及び原価計算表」(乙第一一号証)に準拠するものである。すなわち、同表の料理の部の記載によれば、

関東煮の原価 五割以上六割(平均五、五割)

どてやき   七割

小鉢物    六割以上八割(平均七割)

茶腕むし   七割

であるから、これを算術平均すれば六六パーセントが原価となる。

(なお、原告の営業の実態からみて、販売高の比重は関東煮にもつとも重いから、単純平均の方法はむしろ原告に有利である。)

二、必要経費(合計四、四八一、六五四円)

(1)  仕入金額(四、〇五九、二九五円)

(イ) 酒類の仕入金額三、一二三、一〇六円

(ロ) あて(副食品)の仕入金額九三六、一八九円

(2)  その余の経費(四二二、三五九円)

三、所得金額(八二一、二四四円)

前記一の収入金額(五、三〇二、八九八円)より前記二の必要経費(四、四八一、六五四円)を控除すれば、原告の昭和二八年度分の所得金額は金八二一、二四四円となる。この金額は、被告の審査決定にかかる金額を上廻るものであつて、本件審査決定には何ら取消すべき瑕疵はなく、全部適法である。

四、原告の主張について、

(1)  原告は、一升の酒は一合桝で九、五杯しかとれぬから、特級酒、一級酒、二級酒、焼酎及び生ビールについてそれぞれ五パーセントの量目欠減があるとして、それぞれ被告主張の単位当り売価について五パーセントの減額を主張するが、一升の酒を一合桝で計量すれば一〇杯とれることは事明の理であつて、原告の主張は理由がない。

(2)  原告は、昭和二八年度中の二級酒の売価は一合五〇円であり、価格の変動はないと主張するが、この主張は事実に反する。すなわち、原告と同種の営業をいとなむものを組合員とし、原告も加入していた立呑組合においては、昭和二八年四月より二級酒の売価を一合当り五五円とする旨協定されたが、原告もこれに従い値上げしたのである。従つて、本件係争年中における二級酒の販売価格は、一月から三月までは一升当り五〇〇円、四月から一二月までは一升当り五五〇円である。

(3)  原告は、酒類及びあて(副食品)の売上率は七七パーセント及び二三パーセントであるとして、あての売上高を一、〇七八、五一六円と推計するが、あての仕入高は九三六、一八九円であるから、その差益は一四二、三二七円、従つて差益率は一三、二パーセント(原価率八六、八パーセント)であるところ、これと原告主張の酒類売上高、仕入高から算出した差益率一三、五パーセントを平均すれば、その差益率は一三、四パーセントとなり、これを被告が調査した小料理業(酒及び料理を含む)の標準差益率四一、一パーセント(乙第九号証の一及至三)に比較すれば、著しく低率であるから、原告主張の右売上率は全く根拠がないものというべきである。

(4)  原告は、酒類の売上に際して五パーセントの量目欠減があると主張し、被告はこれを否認するものであるが、仮りに然りとしても、原告の所得金額は六六一、四九八円五〇銭であるから本件審査決定に取消すべき瑕疵はない。すなわち、右の五パーセントの欠減を認めるならば、酒の売上高は次のとおり三、七二四、六八四円五〇銭である。

(イ) 二級酒以外の売上高(一、八五三、一八四円五〇銭)

原告主張のとおり。

(ロ) 二級酒の売上高(一、八七一、五〇〇円)

二級酒の売上高は次表のとおりとなる。

期間

仕入数量

単位当り売価

五パーセント欠減単位当り売価

売上高

一月―三月

一、三〇〇升

五〇〇円

四七五円

六一七、五〇〇円

四月―十二月

二、四〇〇升

五五〇円

五二二円五〇銭

一、二五四、〇〇〇円

合計

一、八七一、五〇〇円

以上(イ)(ロ)の酒の売上高に前記一の(2)のあて(副食品)の売上高を加え(以上合計五、一四三、一五二円)、これより争のない必要経費四、四八一、六五四円を控除すれば、所得金額は六六一、四九八円五〇銭となる。

(原告の主張)

一、被告主張一(収入金額)の事実中、原告の営業が開始後日浅く帳簿等計算の基礎材料が充分でなかつたこと、(1)(イ)の二級酒以外の酒類の売上について仕入数量、単位当り売価、(1)(ロ)の二級酒の売上について仕入数量、一月より三月までの販売価格、(2)(イ)のあて(副食品)の仕入高が被告の主張するとおりであることは認めるが、その余は否認する。すなわち、

(1)  原告の営業は、うまい料理、きれいな座敷、美人のサービス等ではなく、「良い酒を」しかも「はかりが良い」ということで顧客に納得を求めるものであるから、顧客の前でこぼれないような酒の量り方ができるものではない。従つて、一升の酒を一合桝で一〇杯もとることはできないのであつて、せいぜい九、五杯しかとれぬから、五パーセントの量目欠減を認め、特級酒、一級酒、二級酒、焼酎及び生ビールについての被告主張の単位当り売価を五パーセント減額すべきである。

(2)  被告は、二級酒の販売価格が一月より三月までは一升当り五〇〇円、四月以降一二月までは一升当り五五〇円であつたと主張するが、原告の加入していた立呑組合で二級酒の販売価格を一合当り五五円に協定したのは昭和二九年四月であつて、本件係争年度中ではない。もつとも原告は、本件係争年度中において、一時二級酒を一合当り五五円で販売した事実はあるが、年間需要期には一合当り五〇円で販売していたのであるから、本件係争年度を通じ二級酒の販売価格を一升当り五〇〇円で計算すべきである。

(3)  被告は、あて(副食品)の売上高を推計するに当り、原価率六六パーセントを適用するが、その原価率の算出の根拠となつた「販売品目定価及び原価計算表」(乙第一一号証)は、素人料理の関東煮一本五円売りなどといつた商売にかかる原価計算を要求したこと自体に矛盾があつたというべきである。たとえば、大根のけん、パセリ、サラダの一枚、花鰹節、からしの分量までも原価計算の単位に掲上することは無理である。夏場のくされ、豆腐のくずれ、どてやきの煮詰り、白味噌の補充、夏場の魚の廃棄など机上面で現われぬ損失は相当の経験者でも免れないのであつて、原告のごとき素人の初年営業という実態をも度外視した被告主張の原価率なるものは、局部的正確さを装い、事態を恣意的に操るものというべきである。

二、被告主張二(必要経費)の事実はすべて認める。

三、原告の所得を次の計算法によつて算出すると、二〇七、五四六円となるから、この点からみても被告の本件審査決定が一部違法であることは明らかである。

(1)  収入金額(四、六八九、二〇〇円)

(期首及び期末棚卸商品有高は略同額であるから計算を略す。)

(イ) 酒類の売上高(三、六一〇、六八四円)

酒類の売上高は次表のとおりである。

品種

仕入数量

仕入単価

単位当り売価

五パーセント欠減単位当り売価

売上高

特級酒

一三升

九五〇円

一、〇〇〇円

九五〇円

一二、三五〇円

一級酒

六三升

七八〇円

八五〇円

八〇七円五〇銭

五〇、八七二円五〇銭

二級酒

三、七〇〇升

四五〇円

五〇〇円

四七五円

一、七五七、五〇〇円

焼酎

二、七三〇升

二九〇円

三五〇円

三三二円五〇銭

九〇七、七二五円

ビール(大)

四、八〇〇本

一〇四円

一二〇円

五七六、〇〇〇円

ビール(小)

八八八本

六〇円

六五円

五七、七二〇円

ビール(黒)

七四四本

六八円

七五円

五五、八〇〇円

生ビール

八八二立

一六六円

二三〇円

二一八円五〇銭

一九二、七一七円

合計

三、一二三、一〇六円

三、六一〇、六八四円五〇銭

(ロ) あて(副食品)の売上高(一、〇七八、五一六円)

酒類及びあて(副食品)の売上比率は七七パーセント及び二三パーセントであるから、これを酒類の売上高三、六一〇、六八四円に適用すれば、収入金額は四、六八九、二〇〇円となり、これより酒類の売上高を控除するとあて(副食品)の売上高は一、〇七八、五一六円となる。

算式3,610,684円÷(1-0.23)=4,689,200円

4,689,200円-3,610,684=1,078,516円

(2)  必要経費(四、四八一、六五四円)

被告主張のとおり。

(3)  所得金額(二〇七、五四六円)

前記(1)の収入金額(四、六八九、二〇〇円)より前記(2)の必要経費(四、四八一、六五四円)を控除すれば、原告の昭和二八年度分の総所得金額は金二〇七、五四六円となる。

(証拠省略)

理由

原告の請求原因事実中、前段の事実は当事者間に争いがない。

被告は、原告の本件係争年度における総所得金額を算出する方法として、原告は、被告の調査に際して全然帳簿、証拠書類がないと称してこれを提示しなかつたので、原告の売上高について推計の方法によるほかないと主張するところ、原告の営業が開始後日浅く帳簿等計算の基礎材料が充分でなかつたことは原告において自認するところであり、また、証人中井英一の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告方には営業上の売上高に関しこれを明確に記載した帳簿はなく、存するのはただメモ程度のものであつて、しかもメモ程度のものさえ被告の調査に際してこれを提示しなかつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠もないので、本件において原告の所得を算出するためには、いわゆる推計課税の方法によらざるを得ないものと認められる。

そこで被告の主張の当否を検討する。

(一)  売上金

(1)  二級酒以外の酒類の売上高について、本件係争年度における原告の仕入数量、単位当り売価が被告の主張するとおりであることは当事者間に争がないところ、原告は、特級酒、一級酒、二級酒、焼酎、生ビールについては五パーセントの量目欠減があると主張するので検討するに、成立に争のない乙第一一号証、証人山口清作、同今井正明、同田村肇、同藤本道博の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告の店はいわゆる正一合売りを看板にする大衆酒場であつて、顧客の面前で酒を一合桝に入れ、これをコツプに入れて冷のまま顧客に提供するか、これを錫タンボに移して燗をし、さらにコツプに入れて顧客に提供する方法を採用しているものであるから、かかる操作の際に酒のこぼれなどがあつて、一升の酒から一合桝で一〇杯をとることはできず、九杯半を限度とすること、生ビールはビヤホールのように頻繁に注文がなく、前日分を売る場合があつて、この場合泡が荒く泡立ちがすぐ消えるので、顧客に提供するには、余分に量り入れなければならないところから、少くとも五パーセントの量目欠減を免れないことが認められ、右認定に反する証人山本定市の証言は採用できず、他に右認定を覆すにたる証拠はない。もつとも証人中井英一、同田村肇の各証言によれば、酒一升をいわゆるスタンドでは一二杯分、大衆食堂では一〇杯分とつて、これを一合として販売するのを通例としていることが窺われるが、原告の店はいわゆる正一合売りを看板にする酒場であつたのであるから、かかる販売方法を採用していたとは、にわかに推断しがたい。また、酒を燗した場合の膨張率を考慮しても、鑑定人西野正二の鑑定の結果によれば、清酒一升を一五度より五〇度に昇温した場合に〇、一六一合膨張するにすぎないことが認められるから、右認定を左右するものでない。そうすると、特級酒、一級酒、二級酒、焼酎のみならず生ビールについても、五パーセントの量目欠減を認めるのを相当とする。

してみると、期首棚卸商品有高と期未棚卸商品有高が略同額であることは原告において自認するところであるから、本件係争年度における二級酒以外の酒類の売上高は、その仕入数量を五パーセントの量目欠減を認めて販売した価額ということになり、その計算は次表のとおり一、八五三、一八四円五〇銭である。

品種

仕入数量

単位当り売価

五パーセント欠減単位当り売価

売上高

特級酒

一三升

一、〇〇〇円

九五〇円

一二、三五〇円

一級酒

六三升

八五〇円

八〇七円五〇銭

五〇、八七二円五〇銭

焼酎

二、七三〇升

三五〇円

三三二円五〇銭

九〇七、七二五円

ビール(大)

四、八〇〇本

一二〇円

五七六、〇〇〇円

ビール(小)

八八八本

六五円

五七、七二〇円

ビール(黒)

七四四本

七五円

五五、八〇〇円

生ビール

八八二立

二三〇円

二一八円五〇銭

一九二、七一七円

合計

一、八五三、一八四円五〇銭

(2)  二級酒の売上高について本件係争年度における原告の仕入数量(仕入数量が一月から三月までは一、三〇〇升、四月から一二月までは二、四〇〇升であることは原告において明らかに争わないから自白したものとみなす)、一月より三月までの販売価格が被告の主張するとおりであることは当事者間に争がないところ、原告は、本件係争年度中の二級酒の売価は一合当り五〇円であつて、価格の変動はないと主張するが、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一〇号証、成立に争のない乙第一一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告と同種の営業をいとなむ業者を組合員とし、原告も加入していた布施立呑飲食店組合においては、昭和二八年四月より二級酒の売価を一合当り五五円とする旨協定し、原告もこれに従い値上げしたことを認めることができ、右認定を左右するにたる証拠はないから、原告の本件係争年度における二級酒の販売価格は一月から三月までは一升当り五〇〇円、四月から一二月までは一升当り五五〇円と認めるを相当する。

そうすると、二級酒についても五パーセントの量目欠減を認むべきことは前記認定のとおりであり、前同様期首棚卸商品有高と期末棚卸商品有高が略同額であることは原告において自認するところであるから、本件係争年度における二級酒の売上高は、その仕入数量に五パーセントの量目欠減を認め、これを一月から三月までは一升当り五〇〇円、四月から一二月までは一升当り五五〇円で販売した価格ということになり、その計算は次表のとおり一、八七一、五〇〇円である。

期間

仕入数量

単位当り売価

五パーセント欠減単位当り売価

売上高

一月―三月

一、三〇〇升

五〇〇円

四七五円

六一七、五〇〇円

四月―一二月

二、四〇〇升

五五〇円

五二二円五〇銭

一、二五四、〇〇〇円

合計

一、八七一、五〇〇円

(3)  あて(副食品)の売上高について、本件係争年度における原告の仕入高が九三六、一八九円であることは当事者間に争がない。仕入高が判明した場合において、売上収入金額を推定する方法としては、期首及び期末の商品棚卸高を加減算して売上原価を求め、これを差益率から逆算して売上高を推定する方法、すなわち、

売上高=(期首棚卸商品有高+仕入高-期末棚卸商品有高)÷(1-差益率)の算式を適用することは合理的な推計方法として許されるのであつて、この場合の差益率は、当該企業における仕入価格と販売価格を比較し、これにその他の要素をとり入れて当該企業固有の実情を反映させる差益率を求めることが望ましいが、所得標準率を導く過程において求められる標準差益率によることもできるのである。ところで被告は原告のあて(副食品)の原価率(1-差益率)は六六パーセントであるとしてこれを仕入高に乗じてその売上高を推定するのでまず被告主張の原価率が妥当なものであるかどうかを案ずるに、前掲乙第一一号証(原告作成の「販売品目定価及び原価計算表」)の「料理ノ部」によれば、原告店においては、販売価格に対する関東煮の主要材料の原価は五割ないし六割、湯豆腐の主要材料の原価は五割、どてやきの主要材料及び補助材料の原価は七割、小鉢物の主要材料及び補助材料の原価は六割ないし八割、茶腕むしの主要材料及び補助材料の原価は七割であることが認められ、右認定を左右するにたる証拠はないのであるからこれを算術平均すれば、あて(副食品)の原価率は六三パーセントとなる。ところで証人藤本道博の証言によれば、原告店においては原価率の低い関東煮を主たるあて(副食品)として販売していたことが認められるから、関東煮、湯豆腐の補助材料の原価率を一〇〇パーセントとし、料理過程における廃棄、欠損を考慮に入れても、被告主張の原価率六六パーセントは不当に低率であるとは考えられない。そして、被告主張のあて(副食品)の原価率六六パーセントから導かれる差益率三四パーセントを前記認定の酒類の売上高三、七二四、六八四円五〇銭、当事者間に争のない酒類の仕入高三、一二三、一〇六円から算出される酒類の差益率一六、二パーセントと平均すれば、原告営業の綜合差益率は二五、一パーセントとなり、これを成立に争のない乙第九号証の一乃至三(商工庶業等所得標準率表)により認められる大阪国税局が調査した昭和二八年度の管内小料理業者の標準差益率四一、一パーセントに比較すれば、その標準差益率よりはるかに低率であるのであるから、被告主張のあて(副食品)の原価率六六パーセントは、妥当であるというべきである。

ところで、原告は原告店における酒類及びあて(副食品)の売上比率は七七パーセント及び二三パーセントであるとして、あて(副食品)の売上高を一、〇七八、五一六円と推計するのであるが、あての仕入高が九三六、一八九円であることは当事者間に争がないから、その差益は一四二、三二七円、従つてあて(副食品)の差益率は一三、二パーセント(原価率は八六、八パーセント)となるが、これを前記酒類の差益率一六、二パーセントと平均すれば、原告営業の綜合差益率は一四、七パーセントとなり、これを前記標準差益率四一、一パーセントに比較すれば著しく低率であつて、原告本人尋問の結果中原告主張の売上比率に副う供述部分も首肯しうる根拠に基くものでもないから、原告主張の酒類及びあて(副食品)の売上比率ひいてはあての差益率も到底採用できない。

そうすると、被告主張の原価率を適用して前記掲示の算式によりあて(副食品)の売上高を推計すべきところ、期首棚卸商品有高と期末棚卸商品有高が略同額であることは原告において自認するところであるから、あて(副食品)の仕入高九三六、一八九円に被告主張の原価率六六パーセントを適用すれば、その売上高は一、四一八、四六八円となる。

算式936,189円÷0.66=1,418,468円

(二)  必要経費

仕入金額四、〇五九、二九五円、その他の経費四二二、三五九円合計四、四八一、六五四円が必要経費であることは当事者間に争がない。

(三)  所得金額

所得金額はその年中の総収入金額から必要な経費を控除した金額であるから、前記(一)(1)の二級酒以外の酒類の売上高一、八五三、一八四円五〇銭、(2)の二級酒の売上高一、八七一、五〇〇円、(3)のあて(副食品)の売上高一、四一八、四六八円を加算した合計五、一四三、一五二円五〇銭が原告の昭和二八年度中の総収入金額であり、これより(二)の必要経費四、四八一、六五四円を控除すれば、原告の同年度の総所得額は六六一、四九八円五〇銭となる。

そうすると、右金額の範囲内で原告の昭和二八年度分所得税について総所得金額を金五七一、〇〇〇円とした被告の本件審査決定には、原告主張のような違法はないものといわねばならない。

よつて、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 阪井いく朗 浜田武律)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例